「指導権を取り戻すだと?」
フレータ神官が吐き捨てるように呟いた。
「過去にも何度かその様な言葉を聞いたな・・・それが何を意味するのかわかっているのか?」
「”ティエラ”は我々の何億倍もの人口だぞ。もし我々がセルバの支配権を取れば、彼等は我々の能力を恐れ、抹殺しようとするだろう。今でも我々が犯罪に手を染めたと思えばすぐにでも殺しにかかる筈だ。我々は表に出てはいかん。これまで通り、裏からそっと我々の都合の良い様に政治を動かすのだ。」
「世界中で色々な神が祀られているが、その神が表に出たことがあったか? 歴史に残る争いごとや出来事は全て信仰する人間が起こしたことで、神が行ったものではない。神は姿を表すものではない。」
ロムベサラゲレス神官も諭すように言った。しかしアスマ神官もカエンシット神官も黙り込んだままだった。
セデス少尉が外へ見て、報告した。
「8人出て来ましたよ、1人は縛られている様に見えます。」
キロス中尉と2人のアクサ少尉が会所の外に出た。ひょろりと背が高い神官と中尉が言葉を交わし、やがて彼等は一緒に会所に入って来た。会所は広い空間だったが、12人の男と7人の女が入ると狭く感じられた。縛られた3人の神官は中央の床に座るよう命じられた。
ひょろりと背が高い神官が、ブーカ族のスワレと名乗った。彼はケツァル少佐を見て、ちょっと複雑な表情を見せた。
「我がスワレの家系と貴女の家系は因縁があるようだ。」
きっとケツァル少佐の両親と因縁があったエルネンツォとトゥパルの兄弟と、この神官は家族だったのだろう。トゥパルは、グラダ族の復活を試みたイェンテ・グラダ村の生き残りの一人、ニシト・メナクに憑依され、彼自身が老いて力尽きた後はその体を支配されてしまった。トゥパル・スワレの肉体は、ニシト・メナクとして、ケツァル少佐の父シュカワラスキ・マナ、エルネンツォ・スワレを殺害し、その他の人々も巻き添えにして傷つけた罪で処刑された。
ケツァル少佐はスワレ神官に敬を示して言った。
「過去の因縁は今を生きる我々には関係のないこと。どうか神官様の正しきご判断でこの場を収めて頂きますよう、お願い致します。」