「それにしても・・・」
テオは一つ納得出来ないことがあった。
「たった3人の神官が謀反を起こした訳でしょう? それもサスコシとカイナ族だと聞きました。他の神官は、ブーカ、オクターリャ、マスケゴ、グワマナ、彼等の方が人数が多いし、強いんじゃないですか? どうして3人の神官が大神官代理を呪うことを見抜けなかったのか、阻止出来なかったのか・・・」
「どうしてだと思う?」
ムリリョ博士が不気味な微笑みを一瞬浮かべた。ロホが暗い顔をした。
「テオが挙げた残りの神官の中に、まだ誰か裏切り者がいるのですね?」
博士は答えなかった。しかし彼は沈黙を以て肯定することが多い。そして、表立って公表しない時は、”砂の民”が粛清に動くのだ。ムリリョ博士には裏切り者の特定が出来ているのだろう。しかし公表出来る物的証拠がないのかも知れない。いや、状況証拠だけでも”ヴェルデ・シエロ”の幹部達は評決を下す。長老会は隠れた裏切り者の神官の処分を”砂の民”に一任したのだ。
テオは神殿で働いているロホの兄ウイノカ・マレンカが心配になってきた。彼が今回の内乱に巻き込まれていることは確実だ。どちらの陣営に巻き込まれているのか、テオにも仲間にもわからない。だが、粛清の対象になって欲しくない。
彼は博士に尋ねた。
「神殿内で働く近衛兵や女官や事務官って言うかそう言う労働者は、事件に加担しているんですか?」
博士がピクリと眉を動かした。ロホがテオを見たが、何も言わなかった。言わなかったが、テオがウイノカを案じているのだと悟った。
「悪いこととわかって手を貸していたら、処罰されるだろうな。」
とだけ博士は言った。
彼は椅子から立ち上がった。そしてロホに言った。
「長居した。儂に連絡を取る必要はない。お前の叔父が神殿を訪ねることがあれば、それが返答になる。」