植物園で採取させてもらったカロライナジャスミンの葉、ウイノカ・マレンカから託された小瓶の中の吐瀉物と皮膚片、そしてカダイ師の店で買った”スンスハン”の粉末をテオは分析に取り掛かった。薬屋の粉末はD N Aが破壊されているのではないかと危惧したが、成分は細部に至るまで分析出来た。それは吐瀉物から抽出出来た毒の成分とピッタリ一致した。吐瀉物から抽出出来たD N Aから人間のD N Aを除外し、植物成分のものだけを出す。フル回転で仕事をするテオを助手達は呆気に取られた様に眺めていた。
アルスト先生が真面目に研究している時は、きっと大統領警護隊が絡んでいる。
彼等はテオの邪魔をしないように研究室にかかってくる電話や、学生からの問い合わせに彼等自身で対処した。テオの一番弟子を自認するアーロン・カタラーニ助手は、テオの授業も引き受けた。彼も博士号を取得したので、そろそろ独立した研究室を持たせたいとテオは思っている。しかしカタラーニはテオのそばで研究するのが面白いのだ。いつも突拍子もない事態が起きて、研究室から外に飛び出せる。
カタラーニはテオから大統領のガーデンパーティーに招待されている人は誰だろうと疑問を投げかけられた時、調べろと言う指示でもなかったのに、積極的に調べた。彼が2日後に提出したレポートを見て、テオは眉を寄せた。
「外国に出ている大使や領事ばかりじゃないか。全員を帰国させてパーティーをするのかい?」
カタラーニは外務省で働いている親戚の説明を聞いていた。
「大統領の誕生日が来来月ですが、その前倒しで、各国の大使館が暇な期間に外交官だけ呼んで祝うみたいです。他の省庁のお偉いさん達は、本当の誕生日に別の盛大なパーティーで集まるとか・・・」
彼は肩をすくめた。
「国の税金の無駄遣いですよ。 僕は、今の大統領は好きじゃありません。次の選挙は彼に絶対入れない。」
テオは今迄セルバ共和国の政治家とは距離を置いていたし、選挙に行ったことがなかった。と言うより、彼が亡命して来て、まだ国政選挙は一度も行われていなかったのだ。亡命者に選挙権があるとも思えなかった。
テオはリストを眺めた。ケツァル少佐の養父ミゲール・アメリカ担当全権大使も入っていた。
「もし、パーティーで外交官達に何かあったら・・・」
「大統領の権威の失墜ですね。」
とカタラーニが笑った。