2023/02/09

第9部 古の部族       14

  アンドレ・ギャラガはマイロとチャパをセラード・ホテルに送り届けると、発掘現場に戻ると言って、歩き去った。マイロは部屋に入るとベッドに倒れ込み、そのまま眠り込んだ。なんだか急に物事が動き出したみたいだ。彼は早くアメリカへ帰りたいと思い、しかしまだ何か知らなければならないことがある様な気がして、微かな焦燥感を抱いたが、疲労で眠りに陥った。
 チャパが起こしに部屋に来てくれたのが午後5時半だった。セルバ人は時間にルーズな方なので、6時迄余裕があるかと思ったら、迎えが既に来ていると言う。マイロは慌てて顔を洗った。着替えも急いで済ませたが、サシガメ捕獲が目的の旅だ。Tシャツとデニムしか替えがなかった。ホテルを移動するだけだから、と荷物を急いでまとめて、チャパと共にロビーに降りた。
 白い制服を着た、いかにも「運転手」と言う身なりの男性が待っていた。マイロとチャパの名前を確認すると、車に案内してくれた。それが防弾ガラスで守られた高級S U V車で、マイロは驚いた。

「誰の差金です?」

思わず質問すると、運転手は「何を馬鹿な質問をするのだ」と言いたげな表情で答えた。

「セニョール・バルデスの御指図です。」

 チャパがギクっとして、マイロに囁いた。

「アンゲルス鉱石の経営者です。」
「金持ちか?」
「そりゃもう・・・」

 チャパはさらに小さな声で言った。

「逆らうと命がないと言われてます。」

 しかしマイロは素直に車に乗る気分になれなかった。

「僕等に親切にしてくれる理由がわからない。セニョール・バルデスに直接会うことは出来ますか?」

 運転手が困惑した顔になった。

「私にはわかりません。でも貴方の希望は伝えておきます。」

 チャパがまた言った。

「この場は素直に車に乗せてもらいましょう、先生。僕等が行かなければ、この運転手が罰を受けることになります。」
「そのバルデスって人はどんだけ力を持っているんだ?」

と言いつつも、マイロはセルバ人達を困らせるのは良くないと感じた。少なくともチャパを危険な目に遭わせることは出来ない。

「わかったよ、車に乗る。だけど断っておくが、僕は強盗に遭って有金全部盗られたんだ。だから君にチップを払えない。」


第9部 古の部族       13

 陸軍病院へは、アンドレ・ギャラガが道案内を兼ねて同行してくれた。古い趣のある植民地時代を彷彿させる建物だったが、中身は近代的な病院だった。受付でギャラガが自身のI Dを提示して、連絡が入っている筈だと言うと、すぐに看護師が現れて診察室へ案内してくれた。
 マイロはレントゲンを撮ってもらい、改めて傷口の消毒をしてもらった。怪我をした経緯を語ると、医師は「運が良かった」と言った。

「殺されて捨てられても不思議ではないです。あのペンディエンテ・ブランカ地区はオルガ・グランデでも一番治安の悪い地域です。憲兵隊に連絡を入れておいたと、付き添いの方が仰ったが、まず犯人は捕まりません。」

 それは携帯電話も戻って来ないと言うことだ。マイロは貴重な写真やメモや友人達の電話番号などを失ったことを悔やんだ。
 特に大きな怪我でなく、薬も不要だと言われ、処置代だけを支払って(払ったのはチャパだ)、病院を出たのはシエスタの時間が始まった後だった。

「クレジットカードは大丈夫だったんですか?」

 チャパに訊かれて、マイロはカード会社にも連絡する必要性を思い出した。

「ああ、なんてこった!」

 思わず英語で悪態をついた。ギャラガがチラリと彼を見た。

「カードを使える店は限られています。貴方の事件はアンゲルス鉱石に通報しておいたので、なんとかしてくれるでしょう。」
「鉱山会社が何をしてくれるんだ?」

 マイロが重い気分で尋ねると、チャパが理解したと言う表情でギャラガを見た。

「アーノルド・マイロ名義のカードを使う客がいたらすぐに会社に知らせが入るんですね?」
「スィ。」

 セルバ人同士で何か暗黙の了解事項があるようだ。
 ギャラガが昼食に誘ってくれた。マイロは食欲がなかったが、若者が案内してくれた食堂は美味しい煮込み料理を出しており、匂いを嗅いだら急に手が動いて彼は食べ物を腹に詰め込んでしまった。チャパも満腹で嬉しそうだ。
 食事中にギャラガの携帯に誰かから電話がかかって来て、若者は数分間中座した。戻って来ると、彼は尋ねた。

「宿泊はどちらに?」
「セラード・ホテルと言う宿だが・・・」

 ああ、とギャラガが頷いた。知っている宿の様だ。

「夕刻迄そちらで休んで下さい。知人が1800、つまり午後6時に迎えに行くので、荷物を持って車に乗って下さい。知人が別の宿に案内してくれます。」
「どう言うことです?」

 ギャラガはちょっと困った顔をした。

「知人は国費で研究されている外国人がオルガ・グランデで事件に巻き込まれたことを恥ずかしく思っています。 それで、貴方を励ましたいと思っている様です。」

 意味がわからない。マイロの表情を見て、ギャラガが苦笑した。

「戸惑われるのは当然です。私も今迄そんな待遇を聞いたことがありません。でも断らない方が良いですよ。断られることに慣れていない階級の人ですから。」


2023/02/08

第9部 古の部族       12

  小屋の外から車のエンジン音が聞こえて来た。ケサダ教授がマイロの為に小屋の隅に置かれた大きな保冷ボックスから水の瓶を取り出した時に、車がドアの前で停止した。車のドアが開閉する音が聞こえ、やがて3人の若い男が入って来た。先頭を走って来たのがホアン・チャパで、次がサンチョ・セルべラス、最後がマイロが初めて見る赤毛の白人だった。

「ドクトル!」

 チャパがマイロに抱きついた。

「無事だったんですね! 良かった!! ドクトル・メンドーサが警察に電話をかけようとしたところへ、そこの・・・」

 彼は赤毛の白人を振り返った。

「ギャラガ君が来て、貴方が無事だと教えてくれたんです。」

 ギャラガと呼ばれた男は、ケサダ教授と一瞬視線を交わし、それから己の繋ぎのポケットからマイロにとって見覚えのある品物を出して来た。

「溝に捨てられていました。現金は抜かれていましたが財布と身分証です。パスポートも・・・」

 汚れてしまった貴重品をマイロは受け取った。夢中で確認しているマイロは、背後でケサダ教授とセルべラスが視線を交わし、意味深に笑みを浮かべたことに気が付かなかった。チャパが溜め息をついた。

「パスポートを売り飛ばされなくて良かったです。」
「財布だって、この辺りじゃ売り物だからね。」

とギャラガが言った。マイロは顔を上げ、ギャラガが若いのに鍛え上げた肉体を持つことに気がついた。何かアスリートの様だ。教授や仲間と同じ様に繋ぎを着ているが、立派な筋肉を持っていることがわかる。考古学の学生なのだろうが、まるで軍人の様な雰囲気だ。

「医者に掛かりますか?」

とチャパがマイロに尋ねた。自分達も医学の分野の人間だが、マイロは頭部を怪我している。用心したいのは当然だ。

「ペンディエンテ・ブランカ診療所が一番近いが、この時間はシエスタの前で忙しいだろう。」

 ケサダ教授がそう言って、携帯電話を出した。マイロは己の携帯電話はどうしたのだろう、と思った。ギャラガが持って来てくれた品物の中に彼の携帯はなかった。
 ケサダ教授は誰かに電話を掛け、診察の手配をしている様子だった。マイロは横になりたくなった。気分が悪い訳ではない。酷く疲労を感じたのだ。セルバ共和国に発症例がないと思われたシャーガス病は、存在した。真剣にサシガメを探していたことが無駄になった。市街地で存在しない患者がスラムにいるのは、やはり住居の建築資材や構造の問題だろう。
 教授が通話を終えて、マイロに言った。

「陸軍病院が受け入れてくれるそうです。これからすぐに行きなさい。」


第9部 古の部族       11

  マイロはケサダ教授の沈黙の理由が判らなかった。呪い師との接触方法を考えてくれているのか、それとも呪いなど信じるに足らぬものだと考えているのか。
 やがて、教授が静かな口調で質問して来た。

「呪い師に関して、どんな話を聞かれました?」
「ああ・・・」

 マイロは天井に視線を向けた。

「グラダ大学医学部では、民間信仰による治療に頼る市民がまだ存在すると聞きました。医療を信用出来なくて、最期は呪い師に祈祷を頼むとか。
 アスクラカンでは、家を建てる時に呪い師に祈祷してもらい、その家に住む家族に災いが降りかからない様に祈ってもらうのだと言う話でした。だから、アスクラカンではシャーガス病の症例は聞かない、と町医者が言っていました。勿論、彼は祈祷のお陰でサシガメが家に住み着かないと信じている訳ではありませんが。
 ペンディエンテ・ブランカ診療所のメンドーサ医師は、スラム街の住民は呪い師を雇う金がないので儀式をしてもらえないと言っていました。だから、ここのスラム街にはシャーガス病の患者がいるのです。」

 フン、とケサダ教授が鼻を鳴らした。

「呪い師に病気を退ける力などありません。虫を追い払う特別な薬剤を使うのでもありません。そんな薬剤が存在したら、今頃中南米各国で販売されているのではないですか?」

 正論だ、とマイロは思った。彼は無意識に頭の傷に手をやって、腕の痛みに気がついた。どうやら穴に落ちた時の打撲傷らしい。

「体をところどころ打ったみたいです。失礼して服を脱がせてもらいます。」

 彼はシャツを脱いでみた。肌は黒いが打ち身があれば自分でわかる。そして傷は打ち身ではなく擦過傷だった。緊張が解けてきて、痛みが今頃出て来たのだ。教授が彼の体を眺めた。

「背中と腕に擦過傷があります。包帯の必要はないが消毒しておきましょう。」

 ヒリヒリする痛みにマイロは耐えた。彼の胸にぶら下がっている牙のネックレスに、教授が目を細めた。

「良いお守りをお持ちだ。」
「アダン・モンロイが貸してくれたんです。これを奪われなくて良かった。」
「誰もそんな物を奪おうとは思わないでしょう。」

 ケサダ教授は微かに意味不明な笑みを口元に浮かべた。マイロは気づかずに言った。

「これのお陰で殺されずに済んだのかも知れません。」

 ケサダが小さく頷いた。スィ、と。



第9部 古の部族       10

  地下の世界は、かなり現実的だった。地下墓地の遺跡から少し通路を歩くと、すぐに機械音が聞こえ、明るい空間が広がっていた。坑道から搬入された鉱石をベルトコンベアに載せて地上へ運ぶ基地の様な場所だった。大勢の労働者達が働いていた。オルガ・グランデの一大産業と言うのが理解出来る光景だ。もしかすると地上の労働者より多いのかも知れない。

「ここはアンゲルス鉱石の3番坑です。」

とマイロの耳元で学生のセルべラスが大声で言った。大きな声を出さないと聞こえないのだ。

「僕等は、こちらのエレベーターで地上へ上がります。」

 地下墓地の出口からすぐのところに、小さなエレベーターが設置されていた。

「別に僕等の為に造ってくれた訳じゃないんですが、たまたま近くで遺跡にぶち当たったので、アンゲルス鉱石がグラダ大学に連絡してくれたんですよ。」
「遺跡を調査してしまわなければ、坑道を拡張出来ないからね。」

とケサダ教授も怒鳴った。

「エレベーターは、緊急避難用と換気口、食糧や水の調達の為に、たくさん造られている。今調査している地下墓地は運が良い場所にあった。」

 彼等は狭いエレベーターに乗り込んだ。マイロは長い梯子がエレベーターの横に設置されているのを見て、あれを登らずに済んで良かった、と心から安堵した。まだ後頭部が痛かったし、梯子を登る間に貧血でも起こしそうな気分だ。
 ガタガタ音を立てながらも、エレベーターは無事に地上に出た。扉を開くと、またゲイトがあり、番人がいた。市民が勝手に入り込まないように、また掘っているのが金鉱石なので、警備がいるのだ。ケサダ教授は番人に挨拶して、通行証らしきパスを見せた。セルべラスも見せた。マイロは身分証を持っていなかったが、番人は見せろと言わなかった。
 3人は陽光の中を歩き、少し離れた広い場所に建てられたプレハブの小屋の一つに入った。そこはどうやらグラダ大学考古学部の宿泊所らしく、学生達の荷物や毛布が所狭しと置かれていた。
 ケサダ教授はマイロを端の空いた場所に置かれているテーブルと椅子へ案内した。マイロはそこで椅子に座り、セルべラスの手で後頭部の傷の手当を受けた。血で汚れたガーゼを見て、マイロはゾッとした。頭を割られずに済んで良かった。

「連れがいるんです。僕の助手でホアン・チャパと言う若者です。車で待っている筈ですが・・・」

 チャパは車でマイロの後ろをついて来ていた。もし、マイロがひったくりを追いかけて走ったのを、チャパまでが追いかけていたら・・・。マイロは心配になった。ケサダ教授は慌てなかった。

「貴方が落ちた穴の位置は見当がつきます。ペンディエンテ・ブランカと呼ばれるスラムの坂道から路地に入ったところでしょう。車は入れないから、坂道のどこかに貴方の連れはいると思われます。すぐ探してもらいましょう。」

 教授が学生の目を見た。セルべラスが頷いて、外へ出て行った。
 マイロは溜め息をついた。

「身分証と財布を取られました。パスポートも奪われました。僕を知っている人々に出会えたことが奇跡の様です。」
「何故医学部の人があんな物騒な場所に行かれたのです?」
「ペンディエンテ・ブランカの診療所を訪問したのです。シャーガス病の症例があると聞いたので・・・医師と話をして、それから実際に病気や媒介する昆虫を見つけた人がいないか、探しに行ったんです・・・否、違うな・・・」

 ようやくマイロの記憶がはっきりしてきた。

「医師が、シャーガス病を防ぐために、この国の人は呪い師を雇う話をしたんです。それで、僕は呪い師が虫から身を守るための薬剤か何かを使っているのかも知れないと思い、呪い師に連絡するつてを探していたんです。」

 考古学者が暫く沈黙した。そしてマイロは気がついた。この教授は純血の先住民だ。さっきの学生も先住民だった。もしかして、呪い師を知っているのではないか・・・。

2023/02/07

第9部 古の部族       9

  マイロはびっくりして相手の男を見上げた。

「何故僕の名前を・・・」
「あー、それは・・・」

 若い男が頭を掻いた。

「大学で貴方を見かけたことがあります。貴方は文学部のモンロイ先生と親しくされているでしょ? 僕はモンロイ先生の現代詩の講義を教養の科目で採っているので、貴方のことを先生からお聞きしたことがあったんです。」

 そして彼は自己紹介した。

「考古学部のサンチョ・セルべラスと言います。」

 彼は傍の歳上の男を見た。

「僕の指導教授のケサダ先生です。」
「考古学部のフィデル・ケサダです。」

 それでマイロも自己紹介した。

「医学部微生物研究室の客員研究員アーノルド・マイロです。」
「ドクトル・マイロ、失礼、ミロと呼んでしまった。」
「ミロでも結構です。研究室の人は皆さん、そう呼ぶんです。」

 やっとマイロはケサダ教授が差し出した手を掴んで立ち上がった。まだ頭が痛み、少しふらついてしまう。ケサダ教授が気遣って言った。

「取り敢えず上に出ましょう。貴方は怪我をしている。」

 マイロは考古学者達の発掘作業を邪魔してしまったと申し訳なく思ったが、頭部の痛みに逆らえなかった。セルべラスに肩を支えられるようにして、暗闇の中を歩いた。考古学者2人のヘッドライトだけが頼りだったが、彼等は慣れているのかスムーズに歩き、マイロの足元を気遣ってくれた。
 やがて明るい空間に入った。そこはもう少し広い場所で、電線が引かれ、ライトがいくつかぶら下げられていた。岩壁に棚状の穴が無数に開けられ、それぞれに人骨が入っているのを見て、マイロはゾッとした。ヘルメットに繋ぎの作業着姿をした若い男女が10名ばかり棚の内部写真を撮影したりメモを採っていたが、教授とセルべラスがマイロを連れて現れると、みんな振り返った。数人はマイロを大学で見かけたことがあったのだろう、「え?」と言う顔をした。

「先生、その人は?」
「事情は後で話す。彼は怪我をしているから、これから上へ出る。君達も片付けて後から来なさい。」

 教授は腕時計を見た。

「今午前11時14分だ。12時15分にベースに集合。」

 了承したことを示す学生達の声を聞いて、ケサダ教授に導かれマイロは再び歩き出した。歩きながらポケットを探った。財布も身分証もなかったが、首から下げているジャガーの牙だけは残っていた。


2023/02/06

第9部 古の部族       8

「ペンディエンテ・ブランカの入り口辺りに、この男の連れがいる筈だ。車の中にいる。警察に駆け込まれると面倒だから、眠らせてくれ。」

 誰かがそう囁いていた。男の声だ。すぐ近くにいる。別の声が少し離れた位置で「承知しました」と応えた。
 マイロは目を開こうと努力した。頭を動かすと後頭部に針で刺された様な痛みがあった。思わず声を出した。最初の声の主がそれを聞きつけた。

「目が覚めた様だ。」
「照明を点けましょう。」

 3人目の声がそう言った。そして目の前にほんわりとした黄色い灯りが灯った。マイロは己の瞼が開いていたことに気がついた。今迄真っ暗だったのだ。声の主達がいると思しき方向へ顔を向けた。男が2人座っていた。ライト付きのヘルメットを被り、繋ぎの作業服の様な格好だ。マイロは起きあがろうとした。再び後頭部がズキリと痛んだ。思わず悪態が口から出た。

「ああ、糞!」

 すると男の一人が囁いた。

「アメリカ人です。英語を喋りました。」
「知っている。」

 片方の男がそばへ来た。

「軽い脳震盪だ。それから少し頭皮を切っているが、大した傷ではない。」
「大したことはなくても、痛い。」

 と言いつつ、マイロは用心深く上体を起こした。恐る恐る後頭部に手を当ててみた。チクリと傷が痛んだ。

「一体、僕の身に何が・・・?」
「それは私にはわからない。」

と男が言った。

「君は竪穴から滑り落ちて来た。そして私の学生達の前にいきなり現れたのだ。」
「学生?」

 マイロは周囲を見回した。そして、2人の男の後ろにある物に気がつき、ギョッとした。

「貴方の後ろ!ミイラじゃないか?!」
「スィ、ミイラだ。」

 男もその連れも平然としていた。連れの若い方が言った。

「ここは14世紀の地下墓地で、我々は考古学者です。」

 マイロは暫く理解出来ないで土の上に座っていた。彼が覚えているのは、スラム街で携帯電話を少年にひったくられ、追いかけたことだ。路地に入り込み、角をいくつか曲がって、少年に追いつけそうになった時、いきなり後ろからガツンとやられた。そこで意識が飛んでしまった。
 マイロが黙ってしまったので、歳上の男が言った。

「オルガ・グランデの地下は金鉱を掘るための地下通路が迷路状に広がっている。そして古代から近世迄の先住民の地下墓地が同様にアリの巣のように造られている。市街の至る所にその入り口が口を開いていて、うっかりすると転落する。生きて出られるのは稀だ。大概は落ちたら死ぬ。」

 マイロは溜め息をついた。

「うっかり落ちたんじゃないと思う。ひったくりを追いかけて、多分そいつの仲間に後ろから襲われたんだ。気絶した。覚えているのはそれだけだ。」

 ああ、と若い方が呟いた。

「この人、穴に捨てられたんですよ。」
「運が良かったな。垂直の穴ではなく、傾斜孔に落とされたのだ。」

 彼等は立ち上がり、歳上の方がマイロに手を差し出した。

「立てるか、ドクトル・ミロ?」


第11部  神殿        12

 テオは用心深く尋ねた。 「白人の俺が、貴方方の秘密を知り過ぎると、生きてここから出られないような気がするのですが、俺は今どんな立場にいるのでしょう?」  最長老が近くの棚に心なしかもたれかかった様に見えた。 「貴方の立場は、ピラミッドの中に現れた時から危険な位置にあります。神殿...