アンドレ・ギャラガはマイロとチャパをセラード・ホテルに送り届けると、発掘現場に戻ると言って、歩き去った。マイロは部屋に入るとベッドに倒れ込み、そのまま眠り込んだ。なんだか急に物事が動き出したみたいだ。彼は早くアメリカへ帰りたいと思い、しかしまだ何か知らなければならないことがある様な気がして、微かな焦燥感を抱いたが、疲労で眠りに陥った。
チャパが起こしに部屋に来てくれたのが午後5時半だった。セルバ人は時間にルーズな方なので、6時迄余裕があるかと思ったら、迎えが既に来ていると言う。マイロは慌てて顔を洗った。着替えも急いで済ませたが、サシガメ捕獲が目的の旅だ。Tシャツとデニムしか替えがなかった。ホテルを移動するだけだから、と荷物を急いでまとめて、チャパと共にロビーに降りた。
白い制服を着た、いかにも「運転手」と言う身なりの男性が待っていた。マイロとチャパの名前を確認すると、車に案内してくれた。それが防弾ガラスで守られた高級S U V車で、マイロは驚いた。
「誰の差金です?」
思わず質問すると、運転手は「何を馬鹿な質問をするのだ」と言いたげな表情で答えた。
「セニョール・バルデスの御指図です。」
チャパがギクっとして、マイロに囁いた。
「アンゲルス鉱石の経営者です。」
「金持ちか?」
「そりゃもう・・・」
チャパはさらに小さな声で言った。
「逆らうと命がないと言われてます。」
しかしマイロは素直に車に乗る気分になれなかった。
「僕等に親切にしてくれる理由がわからない。セニョール・バルデスに直接会うことは出来ますか?」
運転手が困惑した顔になった。
「私にはわかりません。でも貴方の希望は伝えておきます。」
チャパがまた言った。
「この場は素直に車に乗せてもらいましょう、先生。僕等が行かなければ、この運転手が罰を受けることになります。」
「そのバルデスって人はどんだけ力を持っているんだ?」
と言いつつも、マイロはセルバ人達を困らせるのは良くないと感じた。少なくともチャパを危険な目に遭わせることは出来ない。
「わかったよ、車に乗る。だけど断っておくが、僕は強盗に遭って有金全部盗られたんだ。だから君にチップを払えない。」