2023/12/14

第10部  依頼人     11

  テオは自分の考えをまとめる目的も兼ねて言った。

「俺がロバートソン博士からの依頼の件を簡潔に話すと、ケサダ教授もさっきのことを教えてくれた。セルバ野生生物保護協会の最初に行方不明になった先住民の会員は、きっとムリリョ博士に接触を図った爺さんの身内なのだと思う。」

 するとロホが言った。

「サバンと言う名はブーカ族にあります。あまり中央に縁がない人々ですから、私も知り合いがいる訳ではありません。恐らく純血種の家族は少ないと思われますが、まだ”ツィンル”(動物に変身出来る人々)がいる筈です。彼等はムリリョ博士が”砂の民”であることを知らなくても、マスケゴ族の長老であることは知っています。ブーカ族の長老は権威とか財力で巷の一族の人々には近寄り難い存在ですから、同族の長老を避けてマスケゴ族の長老に、サバン家は、行方不明者の捜索を依頼したのではないでしょうか。そしてムリリョ博士はサバン家の息子だけでなく別の協会員も行方不明になっていることを知った。もしかすると骨の発見も知ったかも知れません。何か良くない事件が起きていると考えて、博士は”砂の民”に招集をかけたと思われます。」

 テオは頷いた。

「ケサダ教授は俺にこの件に深入りするなと忠告してくれた。」

 ケツァル少佐が難しい顔をした。テオは彼女がこの件に関わるなと言うだろうと予想した。”砂の民”が動く案件に大統領警護隊は口出ししない。大統領警護隊が着手するのが先なら、”砂の民”の方が遠慮してくれるが、今回は向こうが先だ。
 少佐が顔を上げた。

「ロホ、アンティオワカ遺跡の次の巡回はいつになっていますか?」

 え? とテオは驚いた。少佐はこの件に首を突っ込むつもりなのか? ロホが携帯電話を出して、カレンダーを検索した。

「9日先ですね。ミーヤ遺跡とアンティオワカ遺跡を一緒に回る予定になっています。」
「担当は?」
「巡回だけですから、アンドレ・ギャラガだけです。」

 テオは素早く自分の携帯を出した。急いでカレンダーを見た。

「9日先? 俺は暇だけど・・・」

 少佐とロホが彼を見た。彼女が尋ねた。

「行きたいのですか?」


2023/12/13

第10部  依頼人     10

 ケサダ教授の名前が出た途端に、ケツァル少佐とロホの表情が真面目なものになった。教授は大統領警護隊文化保護担当部の全隊員の考古学の恩師だ。そして、これは今このアパートにいる3人、テオと少佐とロホだけの秘密なのだが、フィデル・ケサダはマスケゴ族と名乗っているが本当は純血のグラダ族だった。この世で生存している全ての”ヴェルデ・シエロ”の中で一番強い超能力を持っている男だ。教授自身の性格は謙虚で穏やかだが、もし怒らせでもしたらグラダ・シティ程の都会を一つ一瞬で消し去ってしまえる力を持っている、と考えられている。だが少佐とロホが緊張したのは、思慮深く知識豊富である教授が言った言葉だ。

「奇妙な話ですって?」

と少佐が尋ねた。テオは「詳細は知らないけど・・・」と断って語り出した。

「初めは、ンゲマ准教授のところに、先住民の男性が訪ねて来たことなんだ。その男性はサバンと名乗った。」

 サバンは行方不明になっているセルバ野生生物保護協会の協会員と同じ名前だ。

「そのサバンと言う爺さんが、ムリリョ博士に話があるので紹介して欲しいとンゲマ准教授に頼んだ。それでンゲマ先生は博士に電話をかけた。サバン爺さんと博士は電話で短い会話をしたが、ンゲマ先生の知らない言葉だった。」
「一族の言葉だったのですね。」

とロホが言った。ハイメ・ンゲマ准教授は考古学の先生だ。遺跡調査などの為にセルバ国内のほぼ全部の先住民の言葉を勉強している。それが知らない言葉なら、現代は使用されていない言語だと言うことだ。 テオはロホの言葉の肯定も否定も避けた。彼が聞いた訳ではなかったから。
 
「ンゲマ先生とサバンとの接触はその場限りだったらしい。だが、翌日からムリリョ博士の自宅に先住民の客が数人出入りし始めた。博士の自宅に遊びに行っていたケサダ教授の娘達がそれを目敏く見つけて、帰宅してから父親に報告した。」

 ケサダ教授の妻コディア・シメネスはムリリョ博士の末娘だ。博士は孫を可愛いがっていて、孫娘達が彼の自宅に自由に出入りすることを許している。ケサダ教授の娘達は半分グラダ族の血を引いている。一族の人間達が隠しているつもりの微かな気配さえ敏感に感じ取るのだ。

「ケサダ教授は、本家の客達が”砂の民”だろうと推測した。”砂の民”が動く事件がどこかで起きていると考えた教授は、それとなく博物館の職員に最近館長に誰か接触しなかったかと質問した。そしてンゲマ准教授の電話を館長に取り次いだ職員を見つけた。職員からンゲマ准教授の名前を聞き出し、大学でンゲマ先生にこれもそれとなくムリリョ博士に何か考古学上の情報でも提供したのかと尋ね、サバン爺さんのことを聞き出したんだ。」

 

2023/12/12

第10部  依頼人     9

  その夜、テオは自宅でケツァル少佐とマルティネス大尉と3人で夕食を取った。大尉、つまりロホは住んでいるアパートの水道管が水漏れしてキッチンも浴室も使えなくなったので、修理が終わる迄テオの部屋に身を寄せることになっていた。本当は同じマカレオ通りにあるテオの旧宅、今は部下のアスルが住んでいる長屋に行きたかったのだが、アスルは彼がキャプテンを務める大統領警護隊サッカーチームの会合をするので、上官の頼みを断ったのだ。上官でも部下の都合が悪ければ平気で断られる、それが文化保護担当部の良い面だ。官舎は外へ出た隊員がいきなり泊めてくれと言って入れてくれる程寛容ではない。かと言って、恋人のグラシエラ・ステファンの家に行くのも礼儀正しいロホには無理な話で、結果として親友のテオの家に来た。テオの家は彼の上官のケツァル少佐の家でもあるのだが、幸いアパートの構造上、別の世帯の造りになっているので、テオと少佐が行き来するには、一旦玄関を出て隣のドアを開く手間が存在する。
 食事は少佐の側の部屋の食堂でするのが決まりだった。テオのキッチンは実験用の器材でいっぱいだ。せいぜいお茶を淹れることしか出来ない。少佐が雇っている家政婦のカーラは予定なしに人数が増えても動じることはないし、ロホ一人だけだから、笑顔で歓迎してくれた。
 最初の話題はロホのアパートの修繕だった。住民の負担の是非や家主の態度や工事請負業者が誰になるのかと言う話をした。ロホは水道管が直りさえすれば良いので、負担額が決まる迄口出ししないつもりだ。少佐は業者がどこの人間か気にした。いい加減な工事をされては困るし、アパートに何か良からぬ細工をされて盗聴器や盗撮機を仕掛けられてはならない、と軍人らしい見解を述べた。ロホは「気をつけます」とだけ答えた。
 アパートの話が終わると、少佐がテオを見た。

「貴方は? 何か面白い話題がありましたか?」

 少佐は他人に喋らせて聞くことを楽しむ人で、自分では話さずに他人に催促する。
 テオはちょっと考えてから、「例の遺伝子鑑定の話なんだが・・・」と切り出した。ロホが説明を求めて少佐を見た。こんな時、”ヴェルデ・シエロ”が持つ”心話”と言う能力は便利だ。目を見つめ合うだけで、一瞬で情報伝達が出来る。ロホは直ぐにテオがセルバ野生生物保護協会のロバートソン博士から骨片を託された経緯を知った。
 テオはロホが頷くのを見て、前段階の説明が省けたことを確認した。そして言った。

「骨はロバートソン博士の助手のイスマエル・コロンに間違いなかった。」

 少佐が溜め息をついた。

「殺人ですね?」
「その様だね。動物に襲われたのなら、無線機や携帯電話が消えたりしないから。」

 ロホが復習するかの様に言った。

「オラシオ・サバンと言う協会員が森の中で消息を絶ったのが2ヶ月前で、イスマエル・コロンがサバンが行方不明になっていることに気がついたのが、その10日後・・・」

 テオは訂正した。

「いや、コロンはサバンの最後の連絡から10日以上経ってから心配になった。正確な日時はロバートソンも覚えていない様だ。コロンはサバンを探すべきだと言ったが、その時は彼以外の誰もまだサバンのことを心配していなかった。コロンがサバンを探しに森に入ったのはそれから更に数日経った後だ。それからコロンも消息を絶って、それがいつなのかは聞いていない。協会はコロンからの連絡が途絶えた1週間後にやっと捜索に乗り出した。そしてアンティオワカ遺跡から西へ4キロの森の中で、骨の残骸を見つけた。」
「憲兵隊に連絡したのですか?」

とケツァル少佐。犯罪捜査は大統領警護隊文化保護担当部の仕事ではない。

「明日、ロバートソンに鑑定結果を報告する。憲兵隊に通報するのは彼女の役目だ。」

とテオは言った。大統領警護隊の2人から興味が失せていきかけた。彼は付け加えた。

「それに関係ないかも知れないが、今日の夕方ケサダ教授が奇妙な話を聞かせてくれた。」


 

2023/12/11

第10部  依頼人     8

  ケサダ教授から何か話があると言ってくるのは滅多にないことだ。大抵はテオが相談したいことがあって、教授を頼るのだった。だからテオはどこかで話が出来る場所を、と一瞬考えた。しかし教授はそこまで重要な要件ではなかったようだ。

「野生生物保護協会の人が貴方の研究室に仕事を依頼したと聞きましたが、新種の動物でも発見したのですか?」

 ただの興味本位の世間話の様に聞こえるが、テオは教授の質問の真意を瞬時に理解した。教授はネコ科の動物に変身した”ヴェルデ・シエロ”の細胞をセルバ野生生物保護協会の人が手に入れたのではないかと心配しているのだ。だから彼は正直に答えた。

「新種ではありません。人間の骨の身元鑑定です。協会の会員が何か良くないことに巻き込まれたらしいのです。」

 ケサダ教授が退くのが感じられた。犯罪捜査に首を突っ込みたくないのだ。

「人間ですか・・・」
「スィ。森の中で消息を絶った協会員を仲間で捜索したら、骨と衣類の断片を発見したそうです。死んでからそんなに日数が経っていないと思われたので、行方不明の協会員ではないかと責任者達は考え、俺のところに鑑定を依頼してきました。」
「悪い予感が当たったのですね?」
「スィ。」

 すると教授は車の周囲をそっと見回した。テオも釣られて周囲を見た。ンゲマ准教授は既に車に乗り込み、駐車場から出て行くところだった。

「行方不明になっている協会員は”ティエラ”ですか?」

 ”ティエラ”は普通の人間と言う意味だ。”ヴェルデ・シエロ”でなく、動物に変身しない、超能力を持たない普通の人間。テオは首を振った。

「スィ、”ティエラ”です。ただ・・・」

 彼はもう一度周囲を見回した。離れた場所で帰り支度をしている車の持ち主がいたが、聞こえない距離だ、と判断した。

「その骨になっていた協会員より先に行方不明になった人がもう一人いたのです。その人がどちらに分類されるかはわかりませんが、先住民出身の人で、骨になっていた人はその先住民の同僚を探しに行ったのです。」

 ケサダ教授は口元に片手を当てて、考えこむポーズになった。何か心当たりでもあるのだろうか。それでテオは事件があった場所を言ってみた。

「骨が見つかったのは、アンティオワカ遺跡から西へ4キロの森の中だったそうです。」

 教授が彼を見た。そして手を下ろして言った。

「この数日義父のところに数人の一族の者が訪ねて来ていました。義父が呼んだのでしょう。」

 テオはドキリとした。ケサダ教授の義父はセルバ国立民族博物館の館長であり、グラダ大学考古学部の主任教授の、ファルゴ・デ・ムリリョ博士だ。博士には裏の顔がある。”ヴェルデ・シエロ”の存在を世に曝す恐れのある人間を消し去る仕事をする”砂の民”と呼ばれる集団の首領なのだった。

「貴方は依頼されたお仕事だけをなさって下さい。」

とケサダ教授が言った。

「義父とその配下が何を問題にしているのか判明する迄は誰も口出ししてはなりません。」


 

2023/12/10

第10部  依頼人     7

  翌日、テオは研究室へ出勤し、早速分析結果を並べて比較していった。骨から抽出したD N Aと毛根から抽出したD N Aが違っていることを願ったが、何回見直しても同一人物のものとしか思えなかった。学生達にも読ませた。普通の人間がゲノムマップを読み解くには時間がかかる。しかし夕刻には彼等もテオと同じ結果を出した。

「先生、あの毛髪の持ち主は亡くなっていると言うことですね?」

 学生達が不安気な表情で彼を見た。テオは認めたくなかったが、明白な答えが出ている以上、頷かざるを得なかった。

「明後日、ロバートソン博士に連絡を入れよう。明日は鑑定証明書を作成する。君達もそれぞれ作って提出しなさい。いずれ君達も各自で依頼を受ける立場になれば作られねばならない。」

 金庫に鑑定結果マップを保管して、みんなで研究室を出た。学舎を出て駐車場に向かっていると、植え込みの陰で2人の考古学者が立ち話をしているのを見かけた。フィデル・ケサダ教授とハイメ・ンゲマ准教授の師弟だ。低い声で人目を憚るような雰囲気だったので、テオは気がつかないふりをして通り過ぎた。考古学部の事情など知ったことではなかったし、恐らく彼等は現在アンティオワカ遺跡の発掘に関わっていない筈だ。ロバートソン博士の助手の行方不明事件と無関係だろう。
 テオは自分の車に近づくとロック解除して、後部トランクを開いた。そこに研究資料が入った鞄を入れ、トランクを閉じた。そしていつの間にか横にケサダ教授が立っていることに気がついて、ちょっとびっくりした。

「こんばんは。」

と教授が声を掛けてきた。

「少し時間を頂いてよろしいか?」

 

2023/12/09

第10部  依頼人     6

  ロバートソンが帰ると、テオは学生達を呼び戻し、午後の授業を行った。教室では研究室で行うのだ。ロバートソンから託された骨片を用いて作業を行った。
 骨を綺麗に洗浄し、砕かずに彼自身が開発した薬品で脱灰処理をしてカルシウムを融解した。タンパク質を除去して、D N Aを抽出し、P C R法による増幅を行い、コピーを多めに作った。同時にヘアブラシの毛髪を助手達に渡し、毛根からD N Aを抽出させた。
 学生達は毛髪からの遺伝子抽出には慣れていたが、骨片からのD N Aとの比較は初めてだった。彼等は比較対象が骨であることに緊張を覚えた様だった。

「先生、もしかして、これは犯罪捜査ですか?」
「恐らくな・・・」

 テオは犯罪捜査の為の遺伝子鑑定を既に何度か依頼されてきたので慣れている。しかし慣れたからと言って、心がいつも穏やかだとは言えない。骨になってしまった人の運命や遺族の気持ちを考えると、胸が重く感じるのだった。ロバートソン博士は言っていた。イスマエル・コロンには妻子がいるのだと。
 学生達に緘口令を敷くわけではなかったが、若者達は研究内容に関して他言しない。彼等はテオの研究室の中で行われることがセルバ共和国では最先端技術を用いた研究であると理解しており、外で気安く喋るものでないと知っていた。
 テオは自宅では研究の話をしない。話したところで同居している婚約者のシータ・ケツァル少佐に「難しいことを言われても理解出来ません」と拒否られてしまうだけだ。しかし事件の話は出来た。学生には研究の話は出来ても依頼内容は言えなかったが、少佐には研究内容を言えなくても事件の話は出来た。
 ケツァル少佐は事件内容より事件現場がアンティオワカ遺跡の近くと言うことに興味を抱いた。以前麻薬犯罪組織が麻薬の隠し倉庫に利用した遺跡の近所で殺人事件が発生した可能性があるのだ。

「アンティオワカはまだ閉鎖されたままですが、他人の留守宅に侵入する輩はどこでもいるものです。」

 少佐は遺跡を見ておきます、と言った。

2023/12/08

第10部  依頼人     5

  フローレンス・エルザ・ロバートソン博士はセルバ野生生物保護協会で小型のネコ科動物マーゲイの生息域の調査をしていた。マーゲイは家猫より一回り大きな動物で斑の毛皮が美しい。彼女の助手は5人いたが、そのうちの一人オラシオ・サバンは先住民の出で、単独行動が好きな男だった。森に出かけて1週間帰らないことが多かったので、彼が協会本部に姿を見せない日が続いても気にする者はいなかった。しかし、2週間前、別の助手で、ロバートソンより長く協会で働いていたイスマエル・コロンがサバンからの連絡が途絶えて10日以上経つことを思い出し、彼を探すべきだと言った。この時点ではまだ協会ではサバンがひょっこり帰って来るだろうと言う楽観があったので、コロンに賛同する人はいなかった。それでコロンは、一応ロバートソンの許可を得て一人で森に入った。サバンは普段奥地に入らなかったので、コロンもそんなに奥に行かないだろう、とロバートソンは思ったのだ。
 コロンの消息もそれっきり途絶えてしまった。
 1週間経って、協会は捜索に乗り出した。そしてアンティオワカ遺跡から西へ4キロ程入った森の中で、人間の死体らしきものを発見したのだった。

「動物に食い荒らされ、骨が散乱していました。衣類の断片と骨・・・それだけでした。」

 ロバートソンはハンカチを出して鼻を押さえた。

「衣類の色から、コロンの服だと推測されます。コロンが何らかの原因でそこで亡くなったとして、何故服と骨しか残っていないのか、不思議なのです。」
「・・・と仰ると?」
「普通、動物保護活動で森に入る場合でも、私達は護身用にライフルを持って行きます。使用したことはまだありませんが、何が起こるかわかりませんから。」

 テオは彼女が言いたいことを推測出来た。

「銃がなくなっていたのですね?」
「スィ。銃だけでなく、携帯電話も無線機もありませんでした。彼が背負って行ったであろう荷物の一切がありませんでした。」
「コロンさんは、動物に襲われたのではなく、人間に殺害されたとお考えですか?」

と尋ねてから、テオは慌てて言った。

「この骨片がコロンさんのものだと想定してのことですが・・・」
「それを確認したくて、アルスト博士に鑑定をお願いしたいのです。」

 ロバートソンは別の物をバッグから出した。ヘアブラシだった。

「コロンの奥さんからお借りしました。サンプルが足りなければ、別の物を借りて来ます。」
「これで十分だと思います。」

 テオは悲しい気分で言った。

「貴女のお考えが間違っていれば良いのですが・・・」
「コロンが殺害されたと考えると、サバンも無事ではないのかも知れません。」

 ロバートソンは鼻を噛んだ。

「鑑定費用はお支払いします。よろしくお願いします。」


第11部  神殿        23

  一般のセルバ共和国国民は神殿の中で起きた事件について、何も知らない。そんな事件があったことすら知らない。彼等の多くは”ヴェルデ・シエロ”はまだどこかに生きていると思っているが、自分達のすぐ近くで世俗的な欲望で争っているなんて、想像すらしないのだった。  テオは、大神官代理ロア...