2025/03/03

第11部  内乱        25

 テオが彼自身の寝室に入ってすぐに電話に着信があった。見るとケツァル少佐からだった。

ーー1人ですか?
「ノ、ロホ、アスル、それにアンドレがリビングにいる。」
ーーでは、1分後に行きます。

 テオは急いで寝室を出てリビングに向かった。そこでは大統領警護隊の男性隊員達が寝る体制に入っていた。アスルがソファに横になり、その側の床にシュラフに入ったギャラガ、ロホはクロゼットから引き出したマットレスを床に広げたところだった。
 そこへ、いきなり空中からケツァル少佐、デネロス少尉、そして男達が知らない女性兵士が3名湧いて出た。

「ワッ!」

とアスルが、彼らしからぬ叫び声を上げて跳ね起きた。ギャラガはシュラフからすぐに出られなくて、転がって物陰に身を隠した。ロホは荷物の横に置いた拳銃に手を伸ばし、そこで固まった。

「少佐・・・」

 テオは己の胸に落ち着け、と声をかけた。少佐とデネロスの後に続いた女性兵士は野戦用の服装だが、持ち物は大統領警護隊のリュック、ライフル、それに槍・・・槍だって?
 床の上に転がり出た女性達は素早く立ち上がった。少佐が先導者らしく、仲間に欠落がないか名前を呼んだ。

「デネロス!」
「スィ!」
「ナカイ!」
「スィ!」
「セデス!」
「スィ!」
「マリア・アクサ!」
「スィ!」
「よし、全員いますね。」

 ケツァル少佐は頷いてから、テオに向き直った。

「エダの神殿から戻って来ました。初顔合わせだと思いますが、3人の少尉は神殿近衛兵です。」
「神殿近衛兵に女性がいるのか?」

と思わず尋ねてから、テオは偏見で役職を見ていたな、と気がついた。

「事情は説明してもらえるのかな?」

 少佐はロホ達を見てから、デネロスを振り返った。

「マハルダ、3人の神殿近衛兵をあちらの部屋へ案内しなさい。向こうで一晩休みましょう。」

 テオはすかさず声をかけた。

「夕食の残りがあるから、食ってもいいぞ。俺達の朝飯のことは心配しなくて良い。」

 デネロスがニッコリ笑って、グラシャス、と言うと、少佐にもグラシャス、と言って3人の新しい仲間を率いてテオの区画を出て行った。近衛兵達はロホ達には挨拶もしなかった。ロホ達もそれを不満に思う様子はなかった。部署が違うと任務遂行中は上官の指示がない限り交流しないのだろう。
 ケツァル少佐が、アスルが退いたソファに腰を下ろした。

「では、手短に話しましょう。そちらも何かありましたか?」

 

 

2025/03/02

第11部  内乱        24

  ムリリョ博士が去ると、室内に張り詰めていた緊張感が一気に緩んだ。凶悪な犯罪組織と戦う時でさえ余裕の大統領警護隊でも、一人の年老いた大先輩は苦手なのだ。テオはアスルがドサリと音を立ててソファに腰を落とし、ギャラガが床に座り込むのを見た。ロホさえ脱力してソファにもたれかかった。

「大神官代理は呪いで癌になったのか?」

とアスルがロホに尋ねた。 ロホはそれまで内緒にしていた事情を知られて、ちょっとバツが悪そうな顔をした。

「本当は癌ではなく、細胞を痛めつけられているんだ。爆裂波を受けたからさ。だが誰にも手の施しようがない。ロアン様は、神官の誰がカエンシット達の仲間が掴み切れていなかったから、指導師を呼ぶことが出来ず、やむなく神殿を出て白人の医療に頼るしかなかったのだ。その前に、アスマ神官がケツァル少佐から預かったサンキフエラの石を試して治すふりをした。あの石は”ティエラ”のために作られたから、ツィンルには効かない。それをカイナ族のエロワ神官は知っていて、ロアン様には黙っていた。石に効力がないのかも知れない、と疑ったふりをしたエロワ神官が大統領府の厨房を人体実験をやらかして大騒ぎになった。ツィンルには効果がない石だと判明したので、ロアン様は諦めて、ビダル・バスコ少尉の母親の診療所へ行かれた。バスコ医師は指導師ではないから、治せないが、呪いだと見破った。彼女はロアン様に神殿を出て神官達から遠くへ行くよう進言し、大学附属病院に彼を入院させた。病名を癌と偽ってね。
 私がロアン様から頂いた情報は以上だ。神官が犯した犯罪だから、下手すると君達に害が及ぶかも知れないと思い、少佐が戻られるのを待ってから報告するつもりだった。」

 テオは苦笑した。

「そんな気遣いは無用だ、と言いたいが、守ってくれて礼を言うよ。俺達は神官がどの程度の範囲で権力を使えるのか、わからないからな。」
「長老会が毒されていないことは幸いだったな。」

とアスルが呟いた。

第11部  内乱        25

 テオが彼自身の寝室に入ってすぐに電話に着信があった。見るとケツァル少佐からだった。 ーー1人ですか? 「ノ、ロホ、アスル、それにアンドレがリビングにいる。」 ーーでは、1分後に行きます。  テオは急いで寝室を出てリビングに向かった。そこでは大統領警護隊の男性隊員達が寝る体制に入...