2024/07/31

第11部  石の目的      15

  ケツァル少佐がテオの電話に迎えを求めて来たのは1時間後だった。ウイノカ・マレンカは既に自転車で走り去っており、テオは車内でウトウトしかけていた。電話で目が覚めると、大きく伸びをして、鞄の中の小瓶の存在を確認してから、大統領警護隊本部の通用門前へ行った。少佐は既に門の外で待っていて、車が停まると素早く助手席に乗り込んで来た。

「早く帰って寝ましょう。」

と催促した。テオが車を出すと、彼女が言った。

「誰かが嘘をついています。或いは情報が複雑になっている感じです。」
「誰が何を言ったんだ?」

 それで、彼女は整理してみた。

「アスマ神官は、”サンキフエラの心臓”はカイナ族が支配していた”ティエラ”の求めに応じて病を癒す目的で作った石だと言いました。 祈祷師が住民の病を石で治療していたのだ、と。」

 テオも語った。

「カイナ族のブリサ・フレータ少尉は、あの石はカイナ族の支配下の祈祷師や族長の為のもので、敵に毒を盛られた時に使われた、庶民のためのものではなかった、と言った。 庶民には、病を治す力がある石の存在が知られていたが、1個しかない石を大勢の治療に使うことはしなかった、と。」

 少佐が暗がりの中だったのでどんな表情をしたのか、テオには見えなかったが、きっと愉快な気分の時の顔ではなかっただろう。

「フレータ少尉は当事者の子孫で、彼女が聞いた言い伝えが正しいのでしょう。アスマ神官はカイナ族出身の神官からの又聞きです。現在神官の中にカイナ族が何人いるかわかりませんが、あの石を実際に見たのは、今回が初めてだった筈です。だから使い方を知っている神官はいなかったのです。」
「それじゃ、カイナ族の神官があの石の効力と使い方を試したって?」
「石を使うのに呪文が必要なのか、石はどの程度治療効果を持つのか、浄化はどの様に行うのか、試したと思います。」
「実際の人間の体を使って?」
「スィ! 厨房スタッフを犠牲にして・・・」

 許せない、とテオは感じた。これは”ヴェルデ・シエロ”の驕りだ。

2024/07/30

第11部  石の目的      14

 「神官がこの国の政治についてどんな考えを持っているのか、直近で仕えている我々にも見当がつきません。」

 ウイノカ・マレンカは大統領府がある方角を見た。そちらには当然”曙のピラミッド”も大統領警護隊本部もある。

「彼等は普段国政に口出しをしないように見えます。実際に政治家達に影響を及ぼすのは長老会です。しかし神殿は長老会の上に位置しており、神官の考え、と言うか、彼等の言葉を借りれば、神託が絶対なのです。今回の事件を事前に知っていたのであれば、阻止を大統領警護隊に命じるのが神官の本来のあり方です。しかし彼等、もしくは誰かが、それを知っていながら放置し、対処法を一人の警備隊員だけに伝えていた。」

 テオも己を考えを口に出した。

「知っていたのではなく、神官の誰かが起こした、と言うことですか?」
「恐らく・・・しかしその目的がわかりません。厨房スタッフを入れ替えるのが目的なのか・・・」
「或いは・・・」

 テオは馬鹿な考えだと思いつつも、頭に浮かんだことを言った。

「”サンキフエラの心臓”の効力を試した、とか・・・」

 ウイノカが彼を振り返った。

「あの石を試した・・・?」
「俺が今思いついたことを言っただけです。」

 ふむ、とウイノカが片手を顎に当てた。

「試すと言うことは、あれを使わねばならないことが起きる可能性がある、と誰かが考えたのか?」

 陰謀の匂い。テオは手をウイノカに差し出した。

「その瓶の中身を分析しましょう。生物由来の毒なら、遺伝子で正体と産地を探してみます。」

 ウイノカが彼の手に小さな瓶を2つ、置いた。

「私とここで話したことはくれぐれも他人に語らぬよう願います。神官の耳に入れたくありませんし、貴方自身も危険に曝されます。」
「承知しています。ケツァル少佐にもロホにも話しません。」

 テオは慎重に小瓶をポケットに入れた。車に入ったら、すぐに鞄に移し替えよう。


第11部  石の目的      13

「秘密の部署ですか? そんな重要なことを、どうして白人の俺に教えるのです?」

 テオは用心深くなっていた。目の前の男が本当にロホの兄なのか確信が持てない。大統領警護隊の徽章は本物だろうが、ロホが身内に隊員がいると知らないなんて信じられなかった。
 ウイノカ・マレンカは辛抱強く説明した。

「初めのうちは、事件を隠して分析だけを貴方に依頼するつもりで、通用門まで行きました。そこへ貴方がケツァル少佐と共にやって来た。恐らく貴方は事件について何か彼女から聞いているだろうと推測したのです。彼女を降ろして貴方がすぐに行ってしまったので、急いで後を追いかけ、探したのです。」

 彼はチラッと後ろを振り返った、テオは暗がりの芝生の上に自転車が倒して置かれているのを見た。弟が中古のビートルで、兄が自転車なのか。夜の街に走り去った車を探して、この男は自転車で走り回ったのだ。

「秘密の部署の貴方が、秘密の依頼を俺に持って来られた理由を聞かせてもらえますか?」

 ウイノカが溜め息をついた。

「大統領府の厨房で料理人達が毒の入った料理を試食して倒れたことは聞かれましたね?」
「スィ。 10人中6人が倒れたと聞きました。」
「残りの4人も軽症ですが、毒を口にしてしまいました。ですから、厨房スタッフは全員明日から仕事が出来ません。」
「では、スタッフの入れ替えが必要ですね?」
「スィ。取り敢えず、大統領警護隊の厨房スタッフが臨時で働きます。大統領府側が代替要員を確保する迄の期限ですが、問題はもうすぐ大統領府でガーデンパーティが開かれることです。」
「あー、それは・・・不慣れなスタッフや外部からのケータリングを利用するのはマズいでしょうね。」
「この様な事態は以前にもあったので、それは問題ではありません。」

とウイノカは言った。

「問題は、この様な事態が起きることを、予想していた人間がいたことです。」

 テオはそこでケツァル少佐が電話で呼び出された理由を思い出した。

「”サンキフエラの心臓”とか言う石を、警備班の隊員が使ったことですか?」
「スィ。」

 ウイノカが重々しく頷いた。

「あの石はケツァルが回収して神官に提出しました。神官はあの石を宝物蔵に納めた筈です。それなのに、一介の警備班隊員が持っていた。そして素早く救護に使用したのです。」
「宝物蔵ってぇのは、誰でも近づける場所ではないのでしょうね?」
「勿論です。近衛兵立ち会いで神官自らが鍵の開け閉めをします。神官以外の人間は鍵を使えません。巫女達も使えないのです。」
「では、神官が何人いるのか知りませんが、誰かが石を無断で蔵から出して、警備隊員に渡していた・・・」
「件の警備隊員は現在司令部内部調査班によって調べを受けています。いずれどの神官に指示されたのか告白するでしょうが・・・現在神官全員がある場所に出かけており、連絡を取ることが許されていません。神官に直接確認する前に、どの神官がこの事態を引き起こしたのか、知りたいのです。」
「ちょっと待って・・・」

 テオは何か恐ろしいことをウイノカ・マレンカが考えている予感がした。

「貴方は、今回の毒の事件は神官によって起こされたとお考えですか?」


 

2024/07/29

第11部  石の目的      12

  ウイノカ・マレンカは肩から小さなポシェットの様な物を下げていたが、その中に片手を入れ、小さな小瓶を2つ掴み出した。

「これの遺伝子分析をして頂きたい。」

 テオは小瓶とウイノカを交互に見た。いきなりの仕事の依頼だ。真夜中に、市役所の駐車場で、しかもテオはそこにいるなんて誰にも教えていない。ケツァル少佐だって知らない筈だ。

「これは何か聞いて良いですか? 教えて頂けなければ、俺は分析しません。」
「その言葉はごもっともです。」

とウイノカは穏やかに言った。まるでロホと喋っているようだ。マレンカ家の人々は皆こんな感じなのだろうか?
 ウイノカはテオに数歩近づき、小瓶をよく見えるように差し出した。

「左側の濁った液体は、今日、大統領府で倒れた料理人の嘔吐物です。」

 テオは思わずウイノカを見た。何故そんなものを、この男が持っているのか?
 ウイノカ・マレンカは続けた。

「右側は同じ人物から採取した皮膚片で、本人の了承を得ています。」

 本当に了承を得たのかどうかわかるものか、とテオは何故か反発心で思った。 ”ヴェルデ・シエロ”は相手の心を支配出来る力を持っているのだ。

「同一人物のものを2種類持って来られた理由は推察出来ます。遺伝子を比較して、異物の遺伝子だけを探せて言うのですね?」
「その通りです。恐らく、生物由来の毒が嘔吐物に入っていると思うのです。」
「その生物の正体を探れと?」
「正体は推測出来ます。それがどこで採れた物か知りたい。」

 ウイノカ・マレンカはさらにテオに近づいた。もう暗がりでも顔が見えた。ロホに似ているが、ちょっと目つきがきつい。

「事件のことは貴方はご存知だと思います。ケツァルと一緒に本部まで来られましたから。だから、私が何故こんな形で貴方と接触しているかを説明しましょう。」

 ウイノカ・マレンカは周囲を見回した。そして胸ポケットからパスケースを出して中の物を見せた。

「え?!」

 テオは緑色に光る鳥の徽章を見て驚いた。

「貴方も大統領警護隊なのですか?」

 ウイノカが微かに笑った。

「弟には内緒にしてください。私は、隊員の殆どが存在を知らない部署に所属しています、神殿近衛兵です。」



第11部  石の目的      11

 大統領警護隊本部の通用門で、テオの車は足止めされた。ケツァル少佐だけが降りて中に入ることを許された。テオは、帰りは電話をかけてくれと彼女に言い、車を市役所の駐車場へ走らせた。駐車違反で咎められずに長時間居座ることが出来るのは、そこが一番本部から近い場所だったからだ。
 駐車場の端っこに車を停めて座席の背もたれを倒し、暫く目を閉じると、少し眠ることが出来た。両足は行儀悪いがハンドルの上だ。
 目が覚めたのは、車の窓を誰かがノックしたからだ。目を開くと、窓の外から中を覗き込んでいる人物がいた。暗くて誰だかわからないが、テオはギョッとして足をハンドルから下ろした。相手は窓から離れ、彼が落ち着くのを待った。
 テオは車の窓を開けずに相手を見つめた。するとその人物はさらに車から離れ、彼に外に出るよう手を振って招いた。体格からして男性だった。細身で背が高い。テオは用心深く車のドアを開けた。

「休んでいる邪魔をして申し訳ない。」

と若い男性の声が言った。

「貴方は、グラダ大学のテオドール・アルスト・ゴンザレス准教授ではないかな?」
「スィ。そう言う貴方は?」

 男性は体の向きを少し変えて、顔に近くの街灯の灯りが当たるようにした。若い先住民だ。

「私は、ウイノカ・マレンカ、アルファットの兄です。」
「ああ・・・」

 テオはびっくりした。車から出たのは、相手を信用したと言うより、思いがけない出会いに驚いたからだ。

「ロホの・・・失礼、マルティネス大尉のお兄さんですか。」

 相手はちょっと微笑んだように思えた。

「弟は色々な呼び名を持っているので、貴方のお好きな名を使ってくれて結構。」
「では・・・ロホと呼ばせて頂きます。」

 ロホは6人兄弟の4番目で、3人の兄がいる。そのどの兄がこのウイノカと名乗った人なのか、テオは分からなかった。ロホは家族の詳細を友人に語らないのだ。

「ロホのお兄さんが、この俺にどのようなご用件でしょうか?」

 

2024/07/25

第11部  石の目的      10

  テオは時計を見た。午前1時前だ。彼は起き上がった。

「俺が車を運転する。」
「貴方は休んでいて・・・」
「いや、気になって眠れないだろう。どうせ俺は本部や神殿には入れないから、車内で寝る。」

 素早く服を着て、2人で駐車場へ降りた。”ヴェルデ・シエロ”はエレベーターの利用を好まないが、ケツァル少佐は急ぎの時はこだわらない。エレベーターを出て車に向かいながら、誰かに電話をかけた。彼女が「承知しました」と言うのを聞いて、上官にかけたのだとわかった。
 車に乗り込むと、テオは静かに道路に出た。少佐がやっと先刻の電話の内容を教えてくれた。

「大統領府の厨房でパーティーに出す料理の予行演習をしていたそうです。料理人の顔ぶれは昔からの人々で政権が変わってもスタッフは同じでした。彼等は作った料理を当然ながら試食しました。そして10人中6人が倒れたのです。」

 え?!とテオは運転しながら声を上げた。

「毒か?」
「わかりません。担当警備班は連絡を受けると直ちに厨房を封鎖し、病人を病院に搬送しました。今夜の司令部の担当はトーコ中佐で、中佐は報告を受けた時、すぐに神殿に連絡しました。彼は"サンキフエラの心臓”に言及しなかったのですが、何故か現場に駆けつけた警備班の隊員の一人があの石を持っており、倒れた一人の厨房スタッフの体に石を当てたそうです。石は本来の働きをして、血と共に毒を吸い出したのですが、使った隊員はそれを他の病人にも使おうとしました。」
「複数の人間にはあの石は使えないのか?」
「私にはわかりません。トーコ中佐が仰るには、吸い取った血と毒が浄化されていないのに次の病人に使ったので、4人目で石は飽和状態になって、5人目の時に豪雨になりました。」

 テオはドキッとした。そう言えば、彼等は雨の中を大統領警護隊本部に向かっていたのだ。

「毒が何の毒なのか、まだわかりません。石を使ってしまったら、手がかりが失われることにもなりかねません。」
「倒れた6人中4人は毒を吸い出してもらえたんだろ?」
「でも完璧とは言えないでしょう。それに・・・」

 少佐が憂の表情で呟いた。

「何故警備班の隊員があの石の存在と役割を知っていて、しかも持ち出せたのか・・・」


2024/07/24

第11部  石の目的      9

  その夜、ケツァル少佐からはムリリョ博士の話題が出なかったので、テオも忘れていた。雨季が始まり、蒸し暑い夜だった。2人が住んでいるコンドミニアムは西サン・ペドロ通りの坂道を登りきった高台にあり、しかも最上階だったので、いつもは窓を開け放って寝るのだが、その夜は雨が降り出したので窓を閉めてエアコンを点けた。シーリングファンが気怠く回る下に、テオはベッドを置いて寝ていた。珍しくケツァル少佐が彼のベッドに来て隣に寝ていた。結婚前なので、刺激が強過ぎるのだが、彼女が平気で裸になって横に並んだので、テオも上だけ脱いで横たわった。少佐はすぐに寝落ちしてしまった。誘うでなく、拒否するでなく、テオにとっては生殺しの様な状態だ。

 眠れないじゃないか・・・

 多分、彼女は彼が触っても怒らない。しかし彼女の方から誘って来ないから・・・いや、この状態は誘っているのではないか? テオはそっと彼女の体に手をかけ、自分に引き寄せた。彼女は無抵抗だ。これはO Kなのか? テオは自分に都合良く解釈して彼女にキスをした。そして手を・・・
 突然ベッドサイドのテーブルに載せた少佐の携帯電話が鳴った。彼が手を引っ込めるや否や少佐が飛び起きて携帯を掴んだ。

「オーラ?」

 彼女が呼びかけると、電話の向こうで誰かの甲高い声が捲し立てた。テオは脱力してその声をぼんやりと聞いていた。少佐は黙って相手の喋りを聞いていたが、やがて、

「わかりました。」

と言った。

「その石は祭壇に置いてください。手を触れないこと。長老会の人で連絡がつく人がいればすぐ来てもらってください。私もこれからそちらへ向かいます。」

 通話を終えると、彼女はベッドから出て、服を着始めた。テオはベッドに横になったまま尋ねた。

「あの石が何か悪さをしたのか?」
「石は悪くありません。」

と少佐は言った。

「大統領府でちょっと問題が発生して、その解決に石を使おうと持ち出した人がいたのです。でも正い使い方を知らなかったので、別の問題が発生しました。」

 テオは体を起こした。

「大統領府ってことは、”ティエラ”の血を石が吸ったってことだな?」
「今ここで説明している暇はありません。私も詳細を知らないので。兎に角、出かけて来ます。」
「部下も行くのか?」
「神殿の神官がいれば、人数は必要ありません。」

 少佐はそこで溜め息をついた。

「その神官全員が外出中なのです。」


2024/07/18

第11部  石の目的      8

  人の血を吸う謎の石「サンキフエラの心臓」を回収した神官からは、それっきり何も言ってこなかった。もとより神殿に何も期待していないケツァル少佐と部下達は日常に戻った。一度カサンドラ・シメネスから「石はどうなりましたか?」と問い合わせがあったが、電話に応対したロホが「神殿が引き取りました」と言うと、それっきりだった。
 石に血を吸われて命を落としかけたディエゴ・トーレス技師は癌の検査を受け、投薬だけで社会復帰出来たようだ。
 全て丸く収まった、とテオも思った。そして石の存在を忘れかけていった。大学でムリリョ博士とばったり出会う迄は。

「石はどうなった?」

 顔を合わせるなり、挨拶もそこそこに博士が質問して来た。学舎内の通路だったので、テオはちょっと困った。授業があったし、その後で学部内職員会議があった。彼はサッと周囲を見回してから、早口で伝えた。

「石は”サンキフエラの心臓”と呼ばれるカイナ族が儀式のために作ったもので、現在神殿が保管しています。カイナ族の友人によると、毒を吸い出す目的の石らしいです。」

 話しながら、テオは「あれ?」と思った。ムリリョ博士は最長老と呼ばれる”ヴェルデ・シエロ”の世界では重鎮だ。彼が属する長老会が地下神殿で会合を開いて国政の方針を決めたりするのではないのか? 彼等は何か変わった出来事があればすぐに情報を得られる立場にいて、国内のことは殆ど全て承知しているのではないのか? 神殿が石を手に入れたことを知っている筈ではないのか?
 ムリリョ博士が白い眉を寄せた。

「神殿が保管しているだと? どの神官が受け取ったのだ?」
「それは・・・」

 テオは博士の怒りを微かに感じ取った。 最長老が情報を得ていない?

「神官の名前を俺が知っている訳がないでしょう? ケツァル少佐に訊いてください。」

 博士はぶっきらぼうに「そうしよう」と呟き、さよならも言わずに去って行った。


2024/07/12

第11部  石の目的      7

  テオがブリサ・フレータ少尉にちょっと尋ねたいことがあると言うと、マハ・アカチャ・ガルソンがキロス中佐を自分の車で送って行くので、テオにフレータを本部まで送って欲しいと言った。テオが承諾すると、フレータは中佐とマハにハグで挨拶を交わし、再会を約束して別れた。

「中佐ともっと話したいことがあったんじゃないですか?」

とテオが車に乗り込んでから、フレータに言うと、彼女は首を振った。

「大丈夫、”心話”で話せましたし、本当にお互いが元気なことを確かめ合う会合でしたから、気になさらずに。」

 そして彼女の方から質問した。

「私にお聞きになりたいこととは、何ですか?」

 テオは車を通りの交通の流れに乗せてから言った。

「大したことじゃないんですが、最近珍しい石が文化保護担当部で採取されて、今大統領警護隊の本部に収められているんです。」
「珍しい石?」
「スィ、”サンキフエラの心臓” と呼ばれているそうです。」

 フレータは目をパチクリさせた。

「それって・・・」

とちょっと驚いた風に言った。

「伝説の石ですよ。」
「伝説ですか?」
「カイナ族の伝説で、人の血を吸わせて病を治す石です。」
「確かに、カイナ族が昔作ったと聞きました。」
「本当にあったのですか?」
「あったんです。 ”ティエラ”の男性が砂漠で拾って、手に握っていると心地良いと感じ、手放せなくなって血を沢山吸い取られ、危うく命を落とすところでした。幸い一命を取り止めましたが。 石は文化保護担当部が回収し、本部に届けました。」
「あれは使い方を知らなければ、命を失うのです。」

とフレータは言った。

「勿論、伝説として私は聞いているので、本当のことだと思っていませんでしたが・・・」
「本来はどんな目的だったのですか? 一個の石で人々の病を治して神の力を示していたのだとしたら、ひどく効率が悪いような気がしますが・・・」
「伝説ですから、はっきりしたことは知りませんが・・・」

 フレータ少尉はちょっと考えてから言った。

「元は病ではなく、毒を吸い出す物だった筈です。」
「毒を吸い出す?」
「スィ。カイナ族の配下にあった部族の神官や族長が敵に毒を盛られた場合に、石に血と毒を吸わせて助けるためのもので、庶民を守るものではありませんでした。ですから、庶民は石の噂を聞いて、病を治す物だと思い込んだのでしょう。実際に治療に使われたのではないのです。カイナ族の権力闘争の中で、石は行方不明になり、作る技術も失われたのです。古代に失われた技術は、伝説の中で語られますが、もう現実に使われることはありません。呪文や気の出し方が全く不明ですからね。」

 旧家の娘らしく、フレータは古代の言い伝えを教えられて育っていたのだ。

「では、本部は何のためにあの石を保管するのでしょう?」
「お偉方の考えは分かりませんが・・・」

 フレータ少尉は額に小さく皺を刻んだ。

「予防策ではないですか?」
「予防策?」
「近日に大統領主催のガーデンパーティーがあるでしょう? もし何か起きた時のための救急処置用に準備しているのだと思います。」


2024/07/11

第11部  石の目的      6

  結局ブリサ・フレータ少尉がカロリス・キロス中佐とガルソン中尉の妻マハと出会ったのは翌週の金曜日の午後だった。研修日程を全部終えて、参加隊員達に3時間の自由時間が与えられたのだ。すっかりグラダ・シティの生活に馴染んだマハが夫名義で買った中古車で中佐を乗せて本部の通用門へフレータを迎えに行った。そして3人はその足で中佐の昔馴染みの経営するカフェで午後をお喋りで過ごした。中佐は改めて己の不祥事で部下達を巻き込んでしまったことを詫び、フレータとマハは彼女を励ました。

「私はあのままだったら一生体験出来なかったであろう都会暮らしを楽しんでいます。子供達も上の学校に進めて、感謝しています。」

とマハは言い、さらに付け加えた。

「夫も、こんなことを申してはなんですが、太平洋警備室にいた頃より生き生きしています。」

 フレータも頷いた。

「国境の警備は忙しいですが、とても楽しいですよ。毎日色々な変わった物を見られるし、友達も大勢出来ました。中佐が私達に謝ることは何もありません。」

 マハが北部国境へ転属になったパエス少尉の家族にも触れた。

「パエスの家の人々も幸せそうです。たまに電話でテジャ(パエスの妻)と話しますが、今まで知らなかったことを色々体験出来て子供達がのびのびしているそうです。パエス少尉も転属当初は沈んでいたそうですが、今はすっかり別人で率先して陸軍警備班の指揮を執ることもあるそうです。」

 キロス中佐は静かに微笑んだ。彼女は己の短絡的な行動が招いた混乱を理解しており、それが部下達の人生を変えてしまったことも承知していた。罪を犯してしまった2人の男達にも申し訳ないと思っていたが、それはこの場では言わなかった。

「貴女達が今幸せなのを知って、私も嬉しいです。これからも友達でいてくださいね。」
「勿論です!」
「グラシャス、中佐!」

 やがてあっという間に時間が過ぎて、3人は店を出た。車のそばに、テオが立っていた。彼を最初に認めたフレータが、2人の女性に彼を紹介した。

「私達を助けてくれたドクトル・アルストです。」

 テオとキロス中佐、マハ・アカチャス(アカチャ族はアカチャス姓しかなかった)・ガルソンは殆ど初対面だったので、挨拶した。キロス中佐は彼の人生も変えてしまったことを謝罪しようとしたが、テオはそれを遮った。

「俺は今本当に幸せなんです、中佐。あの事故で俺の人生は180度変わってしまい、本当の人間らしい生活を手に入れました。グラシャス!」

 ”ヴェルデ・シエロ”らしくなく、中佐は彼と固く握手を交わした。
 マハとは初対面だったが、彼女は夫からテオのことを何度も聞いていて、

「我が家のヒーローですよ。」

と言って彼を照れさせたのだった。


2024/07/06

第11部  石の目的      5

  テオはガルソン中尉にメールを送ってみた。フレータ少尉は男女の間であるし、不祥事で左遷された者同士と言うこともあって直接連絡を取ることを躊躇っていたのだ。

ーー来週ブリサ・フレータ少尉が本部研修でグラダ・シティに来ます。彼女は貴方とキロス中佐と会ってみたいと希望していますが、ご都合はいかがですか?

 返事は、正にテオが夕食の席でケツァル少佐にそのことを話している最中に送信されて来た。

ーー来週は月曜日の夜しか空きがありません。私は本部で彼女と会えると思います。中佐との面会は、私の妻に頼みます。妻はフレータと親しくしていたので、喜ぶと思います。

 ガルソン中尉の妻は”ティエラ”で普通の人間だ。夫や自分が産んだ子供達が”ヴェルデ・シエロ”だなんて知らない筈だった。しかし、フレータ少尉はそんな彼女やサン・セレスト村の住民達と10年以上付き合って来たのだ。キロス中佐はもっと長くあの村にいたし、今は普通の人間の子供達の教育も行っている。心配することは何もない。
 テオはガルソン中尉に理解したと返信した。ケツァル少佐が言った。

「いっそのこと、貴方も面会を遠慮してはいかがです?」
「俺は駄目なのか?」
「女性の集まりの方が、フレータも中佐も気が楽でしょう?」

 それもそうかも知れない。テオは今度こそキロス中佐と話が出来ると期待していたが、我慢することにした。ガルソン中尉が休みをもらったら、その時に中佐に紹介してもらえれば良いのだ。
 午後9時すぎにフレータ少尉に電話すると、彼女はあっさり納得した。

ーー現役は時間調整が難しいですからね。私も研修中に長時間外出出来ませんから、ガルソン中尉と時間を合わせるのは難しいだろうと予想はしていました。キロス中佐とは連絡が取れているので、マハ・・・あ、中尉の奥さんです、マハを誘って頂けるようお願いしておきます。恐らく、中尉よりマハとの方が話すことが多いと思います。

 ケツァル少佐の読み通り、彼女は楽しげに喋って、通話を終えた。
 テオが電話をポケットにしまうと、一緒にテレビを見ていた少佐が、何かを思い出したように言った。

「フレータはカイナ族でしたね?」
「スィ。 純血種だ。」
「カイナ族は混血が進んでいる部族です。純血でいると言うことは、彼女は部族の中でもかなり由緒ある家系の人ですよ。」

 テオと少佐は顔を見合わせた。

「旧家ってことは・・・」
「サンキフエラの心臓に関する言い伝えを彼女は知っているかも知れませんね。」



2024/07/05

第11部  石の目的      4

  テオは南部国境警備隊に派遣されているブリサ・フレータ少尉から電話をもらった。フレータ少尉はオルガ・グランデ出身のカイナ族で、太平洋警備室で10年以上勤務していたが、不祥事で国境へ転属になったのだ。尤も本人は閉塞的だった海辺の村から人間の往来が盛んな国境で働くことに喜びを感じているのだ。

ーー本部研修で次の週明けからグラダ・シティに1週間滞在します。

と挨拶の後で彼女は弾んだ声で報告した。テオも喜んで、どこかで出会おうか、と提案した。すると彼女は言った。

ーーガルソン大尉・・・じゃなくて、ガルソン中尉とキロス中佐にお会いしたいので、一緒にいかがですか?

 テオは嬉しくなった。彼はまだキロス中佐とはまともに会ったことがない。太平洋警備室の元指揮官で、不祥事の大元を作ってしまった責任を取って退役した人だ。現在は子供を対象とした体操教室を運営しており、異人種の血が混じるミックスの”ヴェルデ・シエロ”の子供達の教育も行っている。

「俺も一緒に行って良いのか?」
ーースィ! と言うか、まだガルソン中尉と連絡を取っていないので、ドクトルにお願いしたいのですが・・・?

 テオは考えた。ガルソン中尉は警備班車両部で、大統領のガーデンパーティーの準備に関係しているのではないだろうか。少なくとも来賓の車両の警備はするのではないか?

「連絡は取れるけど、彼が時間を作れるかどうか保障出来ない。だけど、可能性はあるな。」
ーーお願いします。

 フレータ少尉はケツァル少佐に頼ることを考えていない様子だ。ケツァル少佐は彼女の直属の上官ではないし、任務内容で重なることは一つもない。
 実のところテオは自分が直接ガルソン中尉と連絡が取れない場合はケツァル少佐に頼もうと思っていた。

「今夜俺の方から君に電話しても良いかな? 何時頃が都合が良い?」
ーー2100を過ぎれば、いつでも。

 と答えてから、フレータ少尉はちょっと躊躇ってから付け加えた。

ーーステファン大尉によろしくお伝えください。


2024/07/04

第11部  石の目的      3

  マハルダ・デネロス少尉が監視業務から解放される、と言うことはセルバに雨季がやって来ると言うことだ。雨季と言っても、一日中雨が降っている訳ではない。1日のうちの雨が降る時間が多くなる、と言うことだ。つまり、セルバでは乾季でも低地地方は必ず雨が降るのだ。ただ雨季の降雨量は乾季のそれよりずっと多いから、油断は出来ない。

「どうして大統領は雨季にガーデンパーティーなんか開くんだ?」

と遺跡・文化財保護課の職員が新聞を開いてぼやいていた。大きな行事が催されれば交通規制が行われて市民は迷惑するのだ。雨の日に迂回させられるなんて御免だ、とその職員はブツブツ言っていた。通勤コースが大統領官邸へ行く道路と重なっているのだろう。
 デネロス少尉はカレンダーを眺めて、アリアナの赤ちゃんの子守りをする日とデートの日が重ならないようにセッティングすることに熱中していた。ギャラガ少尉が頼んでおいた書類のチェックがまだだったので、ギャラガは咳払いして彼女の注意を現実に向けようとした。

「先輩、キロス中尉はそんなに暇なんですか?」

 デネロスは顔を上げて後輩を見た。

「暇じゃないわ、遊撃班はガーデンパーティーの警備で忙しいのよ。彼の空き時間と子守の時間と実家の畑の手伝いのバランスを考えているのよ!」
「その前に俺が渡した書類に目を通してもらえません?」

 部下達の小さな喧嘩を聞かないふりをして、ケツァル少佐はアスルの机に承認済みの書類を置いた。発掘許可が出た団体の監視と護衛をする陸軍の人数をアスルが手配しなければならない。アスルは書類の枚数を確認した。

「今期の申請は少ないですね。」
「却下が多かったのです。」

 少佐は面倒臭そうに言った。

「同じ遺跡に人気が集中していました。一番信用がおける団体を選んだだけです。」
「人気のある遺跡ですか?」

 アスルはもう一度書類をめくった。

「ああ・・・オクタカスとカブラ・ロカですか・・・サラの審判の遺跡が人気なのですね。」
「外国の団体はその2箇所に的を絞っていますね。共同発掘の提案もあるので、貴方の方で警備規模の手配をして、可能であれば発掘隊の人数追加を許可します。」

 アスルは小さく溜め息をついた。オクタカスとカブラ・ロカはジャングルの奥地で、そこに派遣されると2、3ヶ月は戻れない。しかし呪いのかかった石像とか厄介な墓とかはないので、監視は楽だ。

「監視業務に慣れている陸軍部隊に任せて、俺達は週一で見回ると言うのは、駄目ですか? サボる提案ではなく、他にも巡回したいので・・・」

 アスルはデネロスと違って複数の遺跡を担当している。少佐は頷き、「任せる」と言った。


2024/07/03

第11部  石の目的      2

 賑やかに朝食を食べた後、アリアナは赤ちゃん達と準備された部屋へ去った。遠縁の女性も一緒だった。テオが、彼女は乳母になるのかと訊くと、パパ・ロペスが首を振った。

「彼女はあくまで補助だ。子供達に躾を施すだけだ。子守は別に雇う。」

 雇われる子守は恐らく普通のセルバ市民だ。メスティーソとして生まれた孫達に、パパ・ロペスは”ヴェルデ・シエロ”であることを押し付けるつもりはないのだ。孫達がどう生きていくのか、それは孫達に任せるつもりだった。もしこれが、ムリリョ家だったら、そうはいかないだろう、とテオは思った。ファルゴ・デ・ムリリョ博士は寛容な面を見せるが、それでも純血至上主義者なのだ。子供が白人と婚姻するなどもってのほかだし、メスティーソの孫を持つのを恥と思うに違いない。ただ、サスコシ族の純血至上主義者と違って、異人種の血が混ざる家族を排斥することはしない。例え「恥」と思っても、己の血を受け継ぐ子孫は絶対に守る、それがあの人だ。
 アリアナは幸せだ。ロペス家はシーロの代迄純血を保ってきたが、父親は一人息子が幸せになるのであれば、どんな種族と結婚しようが気にしないのだ。多分、アリアナがアフリカ系であってもアジア系であっても、シーロが妻に迎えると言えば容認したに違いない。実際、アリアナは親族の集まりがあればいつも参加させてもらえる、とテオに嬉しそうに語ったことがあった。女性の同席が許される儀式や宴席には、必ず夫婦で招待され、パパ・ロペスは誇らしげに「息子と娘」と紹介してくれるのだ、と。そして親族の誰かが異人種差別と受け取れる言動をすれば、必ずシーロより先にパパ・ロペスが怒ってくれるのだ、と。
 朝食がひと段落ついたところで、シーロ・ロペス少佐がケツァル少佐に尋ねた。

「来月大統領が在セルバの外交官達を集めてガーデンパーティを行うが、貴女の部署は警護の当番に入っていますか?」
「ノ。」

 ケツァル少佐は即答した。

「今回は入っていません。珍しく太平洋警備室から2名呼ばれていると聞きましたよ。」
「太平洋警備室から?!」

 シーロ・ロペスが珍しく驚いた表情を見せた。

「あんな遠くから、わざわざ?」
「スィ。恐らく、研修も兼ねるのだと思います。派遣された隊員達も向こうに行ったきりでは、ホームシックになるでしょうから。」

 そう言えば、現在の太平洋警備室は首都から派遣された隊員で構成されているのだ。テオは警備班車両部のガルソン中尉は彼等に元いた場所の様子を聞きたいのではないかな、と思ったが、黙っていた。軍隊は郷愁に浸る場所ではないのだ。

 

2024/07/02

第11部  石の目的      1

  アリアナ・オズボーン(セルバ流に発音すればオスボーネ)の出産は一晩かかり、夜明け近くになって、彼女は男女の双子を産んだ。元気な産声を上げた我が子の誕生に、父親のシーロ・ロペス少佐は人前にも関わらず涙を流し大喜びした。
 テオとケツァル少佐、そしてマハルダ・デネロス少尉はセルバの習慣に従い、ロペス家の庭で、ロペス少佐の父親と共に夫婦と子供が帰るのを待った。テオは、大仕事を終えた母親はもっとゆっくり病院で休ませた方が良いのではないか、と内心心配だったが、”ヴェルデ・シエロ”達はちっとも心配していなくて、ロペス家では母と子を休ませる部屋の準備をお手伝いさんが大急ぎで設え、半分白人の血を引く子供のために呼ばれた遠縁の女性が、厳しい顔つきでテオの横に立っていた。
 ケツァル少佐は女の子の、パパ・ロペスは男の子の名付け親になる。2人はどうやら相談がついていたらしく、目と目を合わせて頷き合っていた。
 やがて朝日が射す道路をロペス少佐の車が近づいて来ると、デネロスはもう待ちきれない様子でソワソワと道端に立った。
 車が停車し、人々は車の周囲に集まった。ロペス少佐が運転席から出て来て、後部のドアを開いた。アリアナがゆっくりと降りて来た。恐らく手順を病院か車内で夫から聞かされていたのだろう、彼女は一人目の赤ちゃんを抱いて降りると、夫に渡した。ロペス少佐は壊物を抱くように慎重に赤ちゃんを抱き取った。次にアリアナは車内から2人目の赤ちゃんを出した。多分、本当はその子も父親が抱くのだろうが、アリアナが夫にピッタリくっついて抱きかかえ、夫婦揃って父親の前に立った。
 遠縁の女性が、本来は赤ん坊の祖母の役目であるらしい祈りの言葉を古い言語で囁き、赤ん坊を祝福した。そして赤ん坊一人一人の目を覗き込んだ。 ”心話”で新生児に何かを語りかけたのだ。それから彼女は後ろに退がり、パパ・ロペスとケツァル少佐に場所を譲った。
 ケツァル少佐がアリアナの前に、パパ・ロペスがシーロ・ロペスの前に立ち、女の子から先に名を呼んだ。

「ペドレリーア・オスボーネ・ロペス。」
「テソーロ・オスボーネ・ロペス。」

 どちらも「宝石」「宝物」と名を与えられた赤ちゃんは朝の光が眩しいのか目を閉じた。
 儀式はそこまでだった。パパ・ロペスがそこにいた人々に声をかけた。

「中へ入ろう。細やかな朝食を用意している。そして母親を休ませよう。」

 テオは夫とキスを交わす妹を誇らしく思いながら見つめていた。

 遺伝子組み換え人間も子供を作れるんだ!

 彼はケツァル少佐の手を取った。少佐が彼を振り返り、にっこり微笑んだ。

第11部  神殿        8

 ママコナは、大神官代理を救えるのは大統領警護隊文化保護担当部とテオだ、と断言した。テオは驚きのあまり口をあんぐり開けて、馬鹿みたいに立ち尽くした。ママコナが続けた。 「貴方と貴方のお友達は旧態のしきたりにあまり捉われません。それは古い体質から抜け出せない神官達には脅威なのです。...