「それで、その”サンキフエラの心臓”は、今アスマ神官がお持ちなんですか?」
とマハルダ・デネロス少尉が尋ねた。翌日の夜だった。久しぶりにジャングル奥地の発掘現場監視を終えて彼女が戻って来たのだ。テオは喜んで、一緒に食事に行こうと提案した。しかしロホはグラシエラ・ステファンとデートの約束をしていたし、アスルとギャラガ少尉はサッカーの練習だ。それで結局ケツァル少佐と彼とデネロスの3人だけで、少佐のアパートでカーラの手料理を食べた。
デネロスの遺跡監視の報告が終わってから、テオは不思議な石の話をした。彼の話に足りないところは少佐が補ったのだ。デネロスは人間の血を吸って病気を治す石の存在に興味深々だった。もしそんな石が遺跡で出てきたら、どうしよう、と心配もした。
「”サンキフエラの心臓”の様な石は複数作られたと思えません。」
と少佐が言い切った。
「恐らく、あれが唯一無二の石なのでしょう。」
「それなら安心ですけど・・・」
デネロスは肉の塊を口に入れて、モグモグと食べてから、次の疑問を出した。
「どうして今頃”名を秘めた女の人”はその石を気に掛けられたのでしょう?」
「トーレス技師が拾ったからだろ?」
とテオが言うと、彼女は首を傾げた。
「それじゃ、石が拾われたことをピラミッドの中で知ったってことですよね?」
「石が拾われたから知ったのではなく、石が活動を始めたからわかったのでしょう。」
と少佐。「ふーん・・・」とデネロスは完全に納得が行った風には思えない相槌を打った。
「数千年も眠っていた石の目覚めを、察知されたんですね。ママコナは凄いですね。」
何だか引っかかるような言い方に、テオは気になった。
「何が言いたいんだ、マハルダ。」
「別に・・・」
デネロスは水を一口飲んだ。
「ただ何世代も忘れられていた石が急に復活して、”名を秘めた女の人”はさぞかし驚いただろうな、って思って・・・」
テオは少佐を見た。そして少佐が何やら考え込む目をして空中を見ていることに気がついた。
「どうした?」
と声をかけると、彼女はテオを振り返り、それからデネロスを見た。
「貴女が疑問に感じるのも無理ありません。 ”名を秘めた女の人”は何故石の回収をあの場所にいた人達に命じたのでしょう? 彼女の声を正確に聞き取れる人はあの場に一人もいなかったのに・・・」
その時、デネロスの携帯電話が鳴った。彼女は「失礼」と同席者達に断ってから、電話を取り出して見た。そしてニッコリ微笑むと電話に出た。
「オーラ、アリアナ!」
先方の言葉を聞いて、彼女は「わかった、神様がお守りくださいますように!」と言って通話を終えた。そしてテオと少佐に顔を向けた。
「アリアナがこれから病院へ行きます。赤ちゃんが生まれます!」